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素直な気持ちで
秋庭純子
 17年ぐらい前、娘が32歳の時に、娘に対して、自分が何か今“受け止めなきゃいけないものがある”っていうことに……。もう、ちょっと、前の話だから詳しいことは忘れちゃったんですけど……。
 で、その時に娘が家に居たので、とっさに“今、やらなきゃ!”と思って、後ろから娘を抱きしめたんです。そうしたら、娘は「初めて抱いてもらった、抱きしめられた」って。「こんなふうに抱きしめてもらったことはない。お母さんは今まで、私に寄り添ってなかった」って。

 娘は、男、男、女の末っ子だもんだから、お兄ちゃんのやっていることを真似したりして、結構、しっかりしていて、何でも自分で考えたり、自分でやってしまうので、安心していたっていうか……。私が“この子は何でも自分で出来る子だから、そんなに手をかけなくても大丈夫だ”っていうふうに思っていたんです。
 子どもが年子で3人いるので、学校参観に行っても、3人を一度に見に行けない。だから、一人ずつ順番に、10分おきに見に行ったりして、きちんと見てあげてなかった。それでも、私は、自分なりに精いっぱい、やっていたんです。
 私は娘に対して、“ずーっと心配しているよ!”、“あなたは今、何を考えているの? 何がしたい?って、ずっと考えていたよ”って言うけど、その思いが娘には届いてなかったんですよね。
 私が一人、空回りして、“あーじゃないか?”、“こーじゃないか?”とやっていて、17年ぐらい前にその出来事があって、それから娘がガラッとっていうか、変わってきて、女同士の付き合いが出来るようになってきました。
 娘も結婚して子どもができて、「お母さんも子どもがいたのに、会社に行きながら家のこともやって、私たちを育ててくれて、すごいね!」って、そういうことも言ってくれるようになったんです。

 それで、毎年、母の日にもLINEがきたり、いろんな物を持って来てくれたりして、この間の時は、朝、ちょっと出かけることがあったんですけど、その前にLINEが入っていて、「お母さん、ありがとう!」って。「いつも応援してくれて、感謝してます」って。
 「これからもお母さんが笑顔でいられるように頑張る」みたいなことが書いてあったので、私は“あれっ?”と思って、「ありがとう。でもね、頑張らなくていいんだよ」って。「一所懸命、頑張っているから。この世の中に完璧な人はいない」って。
 「私はちょっとだけ、こころの勉強をしてきたから……。でも、今、ここだよ。だから、そんなに頑張らなくてもいいし、何かあったら応援するから」ってLINEを返したんです。
 その時にもらったLINEも、そういう言葉って、すごく、面と向かって言えない言葉じゃないですか!? でも、それをLINEでくれて、私もそのLINEを見て、すぐ返したんですけど、そんなふうに「人って、完璧じゃないさ。私なんか、チビッとしか……」って。そういう言葉を普段言えないのに、LINEですごく素直にタッタッタッタッって入れて送っちゃったんです。
 その後に“人って、素直にこられると、自分もすごく素直になれるんだなぁ”って。人の思いって、親子だからじゃなくって、誰とでも、やっぱり、本当に、素直な気持ちで相手に接すれば、絶対、素直に、いろんな事情やいろんな条件はあるかもしれないけども、素直にしてくれるんだ。“人のこころって、本当にすごいんだな”って。
 この間の日曜日は“喜び”があって、“気づき”がありました。
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