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お母さんの応援
藤本敏子
私、今、79歳になりますけど、11歳サバを読みまして、ボランティア活動さしていただいております。それでね、デイサービスに月1回、つかしていただきました。その時にね、車いすのかたや障がい者のかたがいっぱい来ます。
 それで、デイサービスのかたが「いろいろ心情を聞いてくれるな」と。「いろいろみんな抱えて来てくれるんだから、『あんた、どうして、そうなん?』とか、聞かないでください」と。「そういうことですから、なるべく、笑顔で会ってください」ってことで、やっていました。
 そこんとこに、一人、男性のかたがいらっしゃいまして、足が五寸もないんです。で、あと、胴体ばっかなんです。それで、いつも奥さんが車いすで連れて来るかたがあります。でも、“どうしてかな?”と思ったけど、一度も聞いたことないんです。それで、お風呂入れる時は援助をしてあげたり、体拭いてあげたり、そういうことをしていました。

 けれどね、その人が私に「今、こういう体になって、親を恨みます」って言ったものですから、「あぁ、そうですか」って。「おいくつになりましたか?」って言ったら、「72歳です」と言って、そのかたが「今日ね、ここまで来るまでに親の恨みは一生、忘れん」って言ったんです。「こういうふうに生んでもらったから、僕も仕事っていう仕事ができなくって……」って。
 で、「今、なに、やってますか?」って言ったら、「はんこ屋をやってます」と言って、「おふくろが、お前、薬剤師になりたいか知らんけど、薬剤師は足がなきゃやれんから、座っていてもできることは、はんこ屋になれ」って。で、「はんこ屋に修行に行って、はんこ、してます」と言ったから、「そうですか。でも、今ね、そういうはんこ、やらしてもらって、座ってやれるっていうことはしあわせですね」って言ったら、「そうだなぁ、そういや、そうだなぁ。おふくろは先見の明があるかなぁ」って、おふくろさんのことを言いましたね。
 そして、その時にね、「お母さん、生んだお母さんはどんな思いで、あんたの成長を見てきたでしょうね」って言ったら、「そうだね、そう言われてみると、おふくろはいつも、お百度参りしとった」と。「水かぶって、お百度参りして、俺の成長を祈ってくれた」と。「そういうおふくろだっちゅうことを今、あんたの言葉で思い出した」って泣いちゃったんです。

 そこでね、「そういう話をしてくれる人がない。そんなふうに生んでもらって、えらい目にあったね」とか言うことはあっても、「そういうおふくろさんがお百度参りして、僕の成長を祈って、そして、はんこ屋になれっていうことも、やっぱし、先見の明があるんだ」って。で、「今、市役所のはんこ屋専門でやっている」と言ったから、「素晴らしいですね。やっぱ、お母さんの応援ですね」って言ったら、「あぁ、応援か、おふくろの応援か……」って言いまして、そいで、「そういうこと言うのは、あんた一人だけだ」って。
 そいで「また来て、聞かしてくれ」って言いましたけど、それから二へん、会いまして、その後、お出でにならなかったんです。そしたら、「亡くなりました」って言いまして、その人の親戚から「ここの、何曜日に来るボランティアのかたに『よろしく言っといてくれ』」と、「あの言葉は忘れないんだ。嬉しかった。初めておふくろを許す気になった」って、そういって、電話がかかってきました。
 私、ホントに嬉しかったんです。私もそのかたがおふくろさんを許して亡くなったということは、ホントに、それだけでも“あぁ、話して良かったな”と思ったんです。ありがとうございました。
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