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悩みの無いふりをして
岡本珠実
 私は“人に悩み事を相談できない”というのが、最大の、ホントに悩みだったんです。それはどうしてかと考えた時に、父親がアルコール依存症だったんですが、小さい時からそういう病気で、家族一同がすごく苦しんできました。
 で、“私のことでは母親に心配をさせまい”と思って、悩み事の無いふり、ホントに悩みなんて無いっていうふりをして、ずーっと生きてきました。
 友達にさえも自分が苦しいことを言えなくて、ただの友達の集まりでもすごい虚勢を張っていないといけないので、自分がすごく疲れて、そういう場所に行くのが億劫になっていました。
 でも、まわりのみんなや吉本さんから口が酸っぱくなるくらいの勢いで、「自分のことを話すんだよ」、「なんでも良いんだよ」っていうことをすごい言ってくれて、その時に“あぁ、そうか”って。それで、私の家のこと、父のこと、自分のことを少しずつ、話ができるようになりました。
 そうすることによって、“あっ、そうか。こういう小っちゃなことでも、相談してもいいんだ。まわりに話をしてもいいんだ”という気持ちに変わっていって、友達との人間関係もすごくラクになってきました。

 私の話と母親の話、父親を含む3人の話が「大きな乗りもの」(在家仏教こころの会の機関誌)に3回連続で載せてもらったんですが、私は友達に父親がアルコール依存症だったことをなかなか言えませんでした。
 だけど、友達で、旦那さんが酒乱で悩んでいた子がいて、私は“自分の話を聞いてほしいな”と思って、その3冊を持って友達の家を訪ねたんです。
 で、「実は私、父親がアルコール依存症で、今まですごく悩んできたのよ」と、今までしたことが無い話をしたので、友達もすごくびっくりして、「エーッ」って。「あんた、そんな悩み事とか無いかと思った」と言われたんですけど、「いや、実は全然そんなこと無くって、うちはホントにどろどろして、もう大変やった」という話をして、その3冊を「よかったら、読んでね」と渡しました。
 それからしばらくして、その子から連絡があって、「私は、その3冊を読んで、もうホントに涙が出て止まらんかった」って。で、「私も自分自身が苦しいと思っていたけども、主人も苦しかったんやっていうことがわかった」と言ってもらえたんです。
 私は友達に自分の話を聞いてもらえて、すごい良かったし、すっきりした気持ちでいたんですけど、その友達も私の話を聞いてもらうことによって、やっぱり、そういうふうに言ってもらえたんだなって。だから、友達から「私もなにか、これから一歩前に進めそう」という話を聞いた時に、“私も前に一歩進めたな”とすごく思えました。
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